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Friday, 11 August 2006

日本刀の名誉回復をめざし、巷説をさくっと切ってみたい

最近わりと耳にする説に、「日本刀は数人切れば刃こぼれするし、脂が巻いて切れなくなる」とゆーのがあります。

どこかのテレビがご丁寧に、巻き藁をすぱっと何度か輪切りにして、「ほら切れなくなった」とかゆー実演をしていたり、することもあります。

人を切るのに、いちいち輪切りにする侍が、どこにいますか。

ところで、料理人たちって、脂ののった、骨の硬い大型魚を何匹となく切りますね(西洋料理だと、小動物くらいなら厨房で捌くと思います)。日本刀より凝ってない、出刃なんかで。

また最近、狂牛病絡みで知った、「アメリカのと畜場が劣悪で危険でどうにも。」とゆー話によれば、そこで働いてる人は、自慢のマイ刃物を頼りに、来る日も来る日も、人よりでかい牛を割き続けてるそうです。あまりにも流れ作業で切り続けるから、ときどき間違って、自分もグサッとやる人が多い(ギャー)けど、アメリカだから保険もなく……、という落とし所の話だったかな、たしか。

どうやらわが国の誇る日本刀は、そのへんの出刃やナイフに負けるようで。

…そんなわけ、ないでしょう。

切れ味が落ちるにしても、刃物が本当に怖いのは、実は、切れなくなってからです。普段、かみそりで顔をあたってて、肌をかすったときなんかを思い出して頂ければ結構かな。

切れ味が落ちたかみそり程、怪我しやすいですし、傷自体、より痛いものです。刃物じゃなくて、いっそダンボールの端っこでも人肌は切れますが、あれってヘタなかみそり傷よりも遥かに痛いですし、塞がりづらかったりもしますよね?

実際、刀剣をきちんと研いでおく理由の一つは、そのほうが

深くても痛みの軽い、武士の情けちっくで人道的な傷ができるから

だったりします。医療用メスがそうであるように。勿論それ以外にも、いくつも理由はありますけどね。

また、切れ味が落ちたにしても、きちんとした作ならみんな、弾性と硬度の兼ね合いを考えて鋼を重ねてますから、多少の刃こぼれだの、脂が巻いた如きでは困りません。昭和軍刀のようなナマクラならともかく。

「日本刀は、真面目に峰うちするとひん曲がる」なんて書いてある文章も見つけましたが、そんな代物(つまりは、ちゃんと鋼で出来てない!)は、むかしなら実用以前に、据えモノ切りテストの段階で落第してると思います。

ちなみにそーゆー、刑死者などの人体で刀の性能を試すことは、近代以前こそ必須でしたが、以降は勿論やってませんから、昔なら欠陥品扱いのナマクラでも、いい値段で出回ってると思います。

銘がどうこうとか仰るかも知れませんけど、同じ伝統芸術の陶磁器とかの名匠が、名作と同時に沢山の失敗作をも生むように、いくら名工でも出来のムラが激しいのが、日本刀が芸術作品といわれる所以ですから、まったく油断なりません。

管理人はちっちゃい頃から鋼が好きです。世界の伝統的な鋼、って、西洋ふくめ一律にたいしたことがなくって、現代技術から見ると箸にもボーにもかかりませんが(除く:本物のダマスカス鋼)、

そんな中、日本が独自に、現代の技術者ですら憧れるような超高炭素鋼の製鋼技術と、その実用品たる日本刀を生み出したなんて、じつに凄いとしか言いようがないと思っています。

日本は昔から西洋を遥かに越える高い識字率を誇ってきましたが、それと同じくらい、管理人が誇りに思っている、自国の歴史の美点です。

上に書いたような国辱的駄説を振りまいて日本刀をけなすヤカラにはうよ崩れが多いですが、そんな方々がマスコミにのさばって、やれ『伝統の復権』の『歴史に誇りを持て』のと説教なさってるわけで、悪い冗談…というか、まさに世も末を極めたり、って慨嘆しちゃいますね。

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おまけ:爆発物についても、巷説をさくっと切ってみる

上の話で見たサイトさんが、同じ武器がらみで、爆発物について「ダイナマイトが発明されるまでニトログリセリンは液体で非常に危険だったから、ダイナマイト以前の時代を舞台にしたライトノベルなどで、爆発物のあつかいが荒い(導火線をぶちっと切るとか)は変だ」とゆーよーなことを書いてらっしゃいました。

この人の頭の中では、元寇で「てつはう」が使われた頃あたりから、19世紀ニトログリセリンが発明されるまでの長い間、

火薬といえばニトログリセリンなんだと思います。すごく偉い感じの文章で、物知りさんちっくな方なので、まー事実なんでしょう。 というか、事実として上げたくなります。

とすると、管理人がちっちゃいころ欠かさず所持してた爆竹やカンシャク玉も、じつは珪藻土に吸わせたニトログリセリンで出来てたんですね? もちろん黒色火薬なんかじゃーなくて。

この方の説に従えばかつて長篠の戦で、織田の鉄砲方が使用した火薬も、液体のニトログリセリンだったんでしょう。もし火縄銃に液体のニトログリセリンを詰めたのなら、信長公、冗談抜きで大うつけです。

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これほどまで、まるで「どこいつ」のトロみたいにモノを信じやすい人って、現実には単なる可哀相な人なので、ソースは書きません。こういう無垢な人に変な知識を刷り込むなんて、酷い大人も居るものだと思います。

お仕着せの「正答」「解法」に忠実すぎる人の末路って、こうなのかな?

無軌道な勉強法しか知らない管理人は、時々、その手のマジメさに憧れるんですけど。

ともあれ、子供に自律の精神を涵養させない、真綿で首をしめるような環境で育った人が、嫌になるほど沢山いらっしゃるんですね…。

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Comments

 国辱的発言者はほんとこの事実を考えてもらいたいですね。
「特殊鋼メーカー首位の、日立金属(5486)は日本刀の技術を科学的に抽出し、強靭なハイテン(高張力鋼板)材用の金型材の開発に成功したことを発表した。この新型鉄鋼材料名はSLD-MAGICといい、プレス業界大手各社はこぞって採用を検討中とのこと。」(日刊商鋼新報2005/6/20記事より)

Posted by: 中山 | Wednesday, 27 August 2008 07:59 PM

中山様有難うございます。やはり日本刀の技術は素晴しいですね。

上記事は実は、例の『百人切り競争報道』事件という、少々際どい話題に触発されて書いたのですが、

日中戦争くらいの時代、日本各地には、まだ、幕末維新期に物心のついた方々が、たくさん生きてらした訳です。

西南戦争のような修羅場の記憶を持つ彼らにとって、「日本刀で百人切り競争」という報道は、充分に現実味のある話だったでしょう。

今どき流行のウヨ崩れの歴史意識て、サヨとか以上に平和ボケで、伝統軽視で、国辱的だと思います。

Posted by: 忘道 | Thursday, 04 September 2008 01:19 PM

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